レビュー「三國志13」:慌ただしい現実社会が垣間見えてくる三國志シミュレーション
ただ、ひたすらに働きます
前置き
世の中、ブラック企業なるモノが存在しております。わたくしだって、そういう企業を知らないでもありません。むしろ、逆です。今までの人生において、ホワイトな企業と出会った事がありません。よって、世の中の企業はどれだけブラックさが濃厚なのかで構築されているのだ、とさえ思っている節があります。いや、ほんとに。
そんなわたくしめも、かつてお世話になりそうになってしまったブラックなところの一つに、「風邪ひいたら注射一本で治るから。風邪引きそうになったら病院行って一本やってもらうといいよ?」なんて事を経営者が笑顔でいうところがありまして。ブラックとは恐ろしきモノなりと、心の底から思わせてくれました。いやほんと、あのときほど「ブラック企業なるものは滅せよ。」と思った事はありません。時として、仕える企業や上司を間違えると地獄へまっしぐらなわけです。そのため、しっかりと見極めが肝心だというしかないのです。……まぁわたくしは無事に逃げ切ったから、今フリーでお仕事をしているのですけどね。ちなみに、編プロ時代の話じゃありませんよ?
あ、ここまでが前置きです。
何はなくとも良い点から
さて、三國志13のレビューとなるわけですが、真っ先に結論を書いてしまうと、スピーディな展開故にウリとしていたシステム等々の相性が悪く、やれることが狭まってしまったシミュレーションとなっております。ここはもう個人的感覚で申し訳ないのですが、コーエープライスで元が取れたかと問われたらNoと答えざるを得ない雰囲気です。
では、まず良い点からピックアップしていきましょう。
評価できる点は3つ。チュートリアルを兼ねた「英傑伝」と「新武将」「外交」の要素が挙げられます。「英傑伝」は、三國志の歴史を大雑把に振り返りながらゲームの基本を教えてくれるチュートリアル的なモノです。ゲームの基礎をたたき込んでくれるので、一度は通らざるを得ない道とも言いましょうか。とはいっても、ざっくりと三國志を振り返るだけに「長い」感は否めないわけですが、丁寧に教えようとしている様は決して悪くはなかったとも言えます。
まだまだ続きます
また、「新武将」は自分の妄想した武将を三國志の舞台で活躍させたい、という欲求を見事に満たしてくれる代物です。最初からパラメータを細かく弄れますし、何よりもランダムでサクッと作れるようになったのは高評価すべきところでしょう。全員女だけの国も簡単に作れますし、時代によっては武将が少ない問題も解決してくれます。難点をあげれば、性も名も「漢字2文字まで」という謎制限があるくらいでしょうか。
なぜ2文字までなんです?
最後に「外交」ですが、今作は時間をかければ確実に効果を発揮してくれます。そういった意味では、上手く使えば良い結果を生み出せて、ちゃんと自分の思い描いた戦略というヤツが楽しめる要素なわけですが、その一方で君主か軍師くらいしかできないというのが難点でしょう。
武将プレイはお仕事感満載
じゃあ、何が不味かったのか。ここからが本番です。
まず、本作は君主以外のプレイが可能ですが、どこの国にも仕えていない状態である“在野”ではやれる事がありません。お金はまともに稼げないし、今作では武将に会うためには面識がほぼ必須(一部特技があれば会えるかもしれない)な仕様なので、知り合うにはお金を使って宴会を開く必要があります。在野での旗揚げは、絆を結んだ人がいれば配下になるのですが、大抵一人で旗揚げせざるをえないのが現状でしょう。よって、結局お金欲しさに仕官する道を歩まざるをえません。
金なしでどうやって知り合えと?
仕官してからは、荷馬車の如くお仕事をこなします。ここからはスピーディな展開となりますが、言われるがままに内政関連の仕事をし、適当なタイミングで戦争をしかけて領土を増やせば、あっという間に“都督”(要するに、偉い役職)へと到達できるでしょう。物をも言わせぬスピード出世で“都督”になると、いきなり大半の領土を委託されることになるのですが、あまりにも見事な君主の投げっぱなしに君主としての仕事や如何に? と思わずにはいられません。つい、「これが使えない上司というヤツか……。」とつぶやきそうになるくらいの憤りを感じさせてくれます。
もちろん、それが能なし君主だというなら多少の理解もできようものですが、残念なことにどんな有能君主であったとしても投げっぱなしてくるので度し難い。しかも、“都督”は先に書いた「外交」が使えず、実質的に「忠誠度を考えなくて良い代わりに外交が使えなくなった縛り君主プレイ」となるので、涙なしには語れません。ちなみに、“都督”に限らず太守や軍師などの役職を言い渡された際、拒否権なんてモノは存在しないわけでして、現実的に考えると「社長(君主)の命令は絶対である」という一言に尽きます。
外交は使えません
また、他武将と仲良くなっていくと「絆」を結ぶ事ができますが、内政関連のお仕事をこなしたりしていると、率先して「絆」を結ぶような余裕はあまりありません。ついでに、敵勢力はどんどん大きくなってしまうので、ある程度のタイミングで戦争をけしかけていかないといけないことも相まって、更に余裕はなくなります。
それでいて、自分以外の武将が勝手に絆を作っていくような事もなく、別に「絆」があろうと無かろうとゲームにほぼ影響がないので、捨て置いてOKと言うのが現状です。要するに、ゲーム全体は内政からの戦争がスピーディな一方で、絆は時間がかかるし内政もできなくなるケースが多いし手間ということで、ゲームスピードとシステムが上手く絡み合っていないという事になります。
絆はあってもなくてもさほど影響ありません
君主、金欠に喘ぐ
では、君主プレイはどうかというと、周りの武将が優秀だった場合は内政関連をそちらに丸投げできるので、ある程度「絆」に時間をかける余裕があります。とはいっても、絆構築にお金を使うケースが多々ありますが、そのお金を稼ぐのが結構大変です。君主であったとしても国庫に手を出す事は許さないという、誰が守っているのかわからないけど鉄壁のセキュリティを見せつけてくれます。
頼むから金をくれ
また、忠誠を上げるには勢力の使命を達成か、各武将の好みのモノをあげるか、官爵を与えるかの3択となっているのですが、勢力の使命を達成は時間がかかり、官爵での忠誠度上昇はたかが知れているので、忠誠が低いけど有能な武将に対してはモノに頼らざるを得ません。で、モノをあげる場合は対象となる武将に直接会って渡すしかなく、呼びつけるなり自分から会いに行くなりしないといけないという手間が発生します。さらに、先ほど書いた通り国庫に手が出せないので、捕虜を大量に登用した後の忠誠度調整が意外と大変です。
現実的に言えば、「給料少なめの社長(君主)が、部下(武将)との交流を図るため(忠誠度を上げるため)ご褒美をあげようと総務に金銭を申請したら、まさかの自腹を切れと言われた」といった次第でございます。で、社長は思うわけです。「会社(国)のためになるはずなのに、なぜだ?」と。
忠誠度を上げたい、それだけなんです……
とはいっても、君主以外のプレイよりは制限がないので、場合によっては多少の自由が効くという意味では楽しむ事ができます。ですが、先ほどから書いている通り、ゲーム全体がスピーディな展開をしていきます。よって、内政でちまちまリソースを溜めてリードしたいというプレイは非常に難しい。早期に領土を広げていかないと敵対勢力に飲まれてしまいますし、勢力を広げすぎると連合を組まれて面倒が起きるのでタイミングよく戦争をけしかけていくのが理想となります。
劉備さんちが囲まれてました
総評:いつも通り、パワーアップキットでそれなりのモノが完成する様な予感をさせる一作
その他の部分に目を向けると、一騎討ちと論戦についてはジャンケンの拡大版くらいなノリでやれるシステムですし、ゲーム全体がスピーディな展開なので我らが劉禅の登場なんてほぼ無理だし、空いている城を取ればあっという間に兵を1万くらい確保できてしまうし、あらゆる意味で「いつも通りのパワーアップキット導入前の無印である」という印象でした。
だいたいパワーアップキット前は色々と粗い作りになっていて、ほんわかとストレスが溜まりやすい仕様になっているケースが多々ありますが、そういった荒い作りやストレスな部分はパワーアップキットで丁寧に修正してくるのが通例(程度もありますが)なので、今作でも相変わらず健在だったと言って良いでしょう。
我らが劉禅のステータス
とはいいながらも、三國志である事は間違いないので、三國志のゲームがしたいという欲求は満たしてくれます。例えば、フリーダムに「甘寧で曹操に仕える」なんて遊び方もできるのは本作ならでしょう。それに、我らが董卓様で善人プレイをしながら歴史的に抹殺されないよう奮闘する君主プレイは、なかなか味わえるモノではありません。呂布さんはどうにもならないので放置するとして、どうやって反董卓連合を作らせないようにするのか、思慮するのは思いのほか楽しめました。あとは劉禅がまともに使えたらなおの事良かったのですが、内政にあまり時間をかけられないくらいにはスピーディにゲームが終わるので、仮想シナリオでもない限りは劉禅の登場する機会はないと思って良いです。
まさかの董卓様と馬騰で絆
ともあれ、レビューするために色んなプレイを試みましたが、ウリとした要素(絆)がゲームスピードやAIの都合で活かせておらず、君主以外のプレイも自由がなさすぎて社畜的なお仕事達成ゲームになってしまうというのが素直な感想です。スピーディな戦闘をシミュレーションでしたいというならその欲求に答えられる可能性もありますが、よほどの三國志好きではない限り素直にパワーアップキットを待っても良い様な気がしてなりません。
私は、ノンビリ思慮するシミュレーションが好きで、特に内政好きで、武将プレイでもお仕事縛りじゃなくてある程度自由きままにやりたいと思っていた人間ですので、その観点からみるとちょっとオススメし難い内容でした。むしろ逆だという人には、本作と相性が良い可能性があるので他の方のレビューなどを探してみる事をオススメします。
今後は、ゲームバランスなどの調整をするアップデートが用意されているとありますが、“在野”なんかは根本的にバランスやAIでどうにかなる問題でもない気がするので、どこまで改善されるのかも未知数でしょう。30周年記念タイトルということではありますが、今後どうなっていくのかは暖かく見守っておきたいモノですね。
この記事を書いた人
:「三國志13」のレビューでございます。
:ふむ。人を選ぶって感じか?
:そだねぇ。こういうシミュレーションが好きな人もいるってのはわかるけど、少なくとも「全武将プレイ」に求めていたのは「違う、そうじゃない」と言わざるを得なかったっす。まぁ、値段が高いゲームなので考えている人は当ブログだけじゃなくて、凄く面白いという人の意見も加味して検討すると良いとは思うよ。……パワーアップキットの話はまだですか?
:……つい先日、無印がでたばかりだろうが……。
ゲーム自体はそれなりに楽しんでプレイしてはいますが
もっとプレイヤー個人をメインに据えて絆関係のイベントをいろいろ楽しめる作りにすれば面白さが増してきそうだなと思いました
今の作りだと戦争がメインになりがちですのでもうちっとのんびりいろんな人と交流して遊びたいのです