レビュー「ENDER LILIES:Quietus of the Knights」 - ただ少女を脱出させるためだけの探索にどうしようもないくらい感情を揺さぶられ、“エモい”を理解した話
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救いたい願望
人生それなりに生きていれば、“何かを救いたい願望”を一度くらい抱いた事があるんじゃなかろうかと。
ゲームで言うならば、「世界を救いたい」とか「あの子を救いたい」とか、そんな感じの願望。
今までの人生を思い返せば、僕が若かりし頃に某MMOで赤ネーム(いわゆるPK)をしていた時、そんな願望を持っていた。
あの時は「大多数から嫌われてる世界を救いたい」だった気がする。
ま、僕のPK話は本題じゃないのでどうでもいいとして。
本記事はネタバレ満載のレビューなので、お読みになる方はそれを理解した上で読んでいただきたい。
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終わらせる者と不死の騎士たちの物語
止まぬ雨が降り続く、すでに滅びた王国。
そんな王国で、ただ一人“生きている存在”として目覚めた少女。
リリィという名らしき少女は自我を持つ不死者“黒衣の騎士”と共に、穢れを受け不死のなれ果てとなった存在である穢者(けもの)たちが徘徊する滅びた王国を探索する事になる。
これが「ENDER LILIES:Quietus of the Knights」のあらすじだ。
ジャンルで言えば、2D横スクロール型のメトロイドヴァニア。
もっと端的に言えば、戦闘主体の探索ものである。
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ここでタイトルに注目してもらいたい。
Enderとは、「終わらせる者」という意味である。
遊んだ人の半分くらいはあまり気にせずプレイしたと思うんだけど、完璧にクリアし物語を理解するとその意味がよくわかる。
リリィは、探索の過程で多くの穢者たちの穢れを浄化する。
浄化された穢者たちは穢れの魂としてリリィの力となり、その力を使いながら探索を進めるとその果てに「なぜ王国は滅んだのか」という謎を知る。
しかし、物語が進むごとに穢れによる影響で、リリィの姿が少しずつ変化している事に気づく。
そして、終盤では純白だった髪が黒く染まり化け物染みた触手的な何かが身体から出ている事がハッキリと目に映る。
そんなリリィは、物語をどう「終わらせる」のか。
これこそが、このゲームがエモい(要するに形容しがたい感情が揺さぶられる)最大の部分と言える。
といったところで、多くのRPGのようにたくさんの説明があって、会話があって、理解した(ないし、させられた)上で話が進むわけじゃない。
ゲームがプレイヤーに語りかけてくれる時は、時折語りかけてくる黒衣の騎士とボス戦後に発生する簡易な的なムービー、探索の過程で拾う事ができるテキストとエンディング。
ついでに言えば、終盤の黒衣の騎士関連イベントくらいなものだ。
他の要素は、多くを語らない。
語らないからこそ知りたくなり、テキストを読み、それでも語られないところは自分の脳内で補完するしかなくなる。
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そう、このゲームはキャラクター相関など物語の詳細を知ることそのものをプレイヤーに委ねたのである。
入手できるテキストは、ゲームをクリアするだけなら読まなくてもまったく問題ない。
RTAをしてたら絶対読まない物だ。
3種類あるエンディングのうち一番大変なエンディングにいく行程さえ、「すべての部屋を探索しよう」と考えて地図と睨み合いすれば案外どうにかなってしまう。
しかし、せっかく用意してくれたテキストを読まないのも勿体ない。
そんなノリで読んでしまい物語に引きずり込まれたプレイヤーは、このゲームの「世界」を構築する一翼を担う事になるのだ。
何故あの姉妹は……。
何故あの魔女は……。
何故あの恋人達は……。
それらの語られない部分は、「自分の脳内で補完するしかない」のだから。
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物語に感情を揺さぶられるほど浸ってしまった僕が、ただ書き殴りたくなった話
いわゆるベストエンディング後に見せるリリィの姿は、探索であらゆる穢れを身体に吸収した影響により半化け物化している。
にも関わらず、黒衣の騎士の問いかけに笑顔で答えるリリィ。
それを見て、僕はただ「良かった」と安堵してしまうくらい、どっぷりとその世界に浸っていた。
とんでもなく感情を揺さぶられ、その余韻が凄い。
こんなにも、この世界が好きだったのか、と思い知らされた。
これほどゲームに激しく感情を突き動かされたのは、ぼちぼち生きてきた人生で四度目になる。
まだ今年は4ヶ月ほどあるが、僕の2021年ベストゲームだと断言しよう。
プレイ時間は25時間程度。
プレイ時間だけを見れば、ハンティングアクションの雄「モンスターハンターRise」にも、読めないテイルズでお馴染み「Tales of Maj'Eyal」にも、諦める事を知らない意地の家出と家族愛ローグライクアクション「Hades」にも届いていない。
でも、「2021年で最高だと思えたゲームは?」と聞かれたら、僕は間違いなく、躊躇することなく「ENDER LILIES:Quietus of the Knights」を選ぶ。
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ゲームとして完成度が高いのは言うまでもない。
物寂しさと空気の重さを匂わせる世界観。
儚い存在であるリリィや、無念の思いを抱きながら穢者となってしまった多くのキャラクターたち。
音楽制作集団Miliが手がけた、世界観と一体化している完璧で上質なサウンド。
必要最低限しか語らないストーリー。
手に汗握る難易度のボス戦。
ストレスにならないリスタート。
どれを取ってもメトロイドヴァニアの教科書みたいに丁寧な作りで、素晴らしかった。
もちろん、不満がある事も否定はしない。
スキル強化素材の入手率が渋すぎる事。
渋すぎるが故に、スキル強化は厳選する必要がある事。
スキル強化後の性能を試せない事(試してオートセーブ発動前にリセットすれば、まぁ……)。
アイテム探しはほぼノーヒント。
物語は必要最小限を語るのみなので、興味がない人はとことん興味がないだろう。
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そんな不満要素があろうとも、とにかく何かを書いてこのゲームは凄いんだと伝えたかった。
「面白い」とか「楽しい」とか、それは間違いなんだけど、でも伝えたいのはそこじゃない。
それとは「別の」感情を揺さぶられたんだ。
「この感情の揺らぎが“エモい”という事なのか」と納得したくらいに揺さぶられたんだ。
ここまで物語に浸らされてしまった僕の完全な敗北である。いや、何と戦ってるのかは知らんけど。
とにかく、プレイヤーをその世界に浸らせる手法と浸った世界そのものが「素晴らしい」んだ。
その下地があった上で「面白い」し「楽しい」んだ。
だから僕は、「良いゲームなんだぞ!」と感情のままに叫びたくなったのだ。
このゲームに感情を揺さぶれるのは、間違いなくプレイヤーだけである。
プレイ動画を見ただけでは伝わらない。
レビューの文章だけでは伝わらない。
自分のペースで遊び、自分のペースであの世界を理解することで、この感情を体験する事ができるのだ。
だから、遊んで欲しいんだ。純粋に。
そして、浸って欲しいんだ。あの世界に。
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儚いリリィを操作して、彼女を護りながら向かってくる穢者たちに悪戦苦闘し、それでもどうにか足掻いて勝ち抜いて、彼らに何があったのかを知り、王国で起きた真実を理解し、徐々に化け物化が進行するリリィが最後に「何を」終わらせるのかをプレイヤーが見届ける。
「終わらせる者」の「救済」。
それはこのゲームを遊び、物語の全てが分かった上で、世界を構築するのに一翼を担ったプレイヤーのみが共感できる結末。
そんな儚くもどこか美しい物語に感情を揺さぶられるような、「素晴らしくて素敵な」ゲーム体験をして欲しいんだ。
ようするに
つまり、一言でまとめると。
「頼むから遊んでくれ」
僕の心からのお願いである。
そして願わくば、開発した人達には「終わらせる者」の続きをほんの少しだけでいいから教えて欲しい。
彼女らがその後どういった軌跡を歩んだのか。
彼女はその後生きている人と出会えたのだろうか?
もし出会えたなら、あの姿の彼女はどう思われてしまうのだろうか?
そんな物語を考えずにはいられない。
王国を脱したリリィを象る彼女が幸せになれたのかどうか、ただそれだけが知りたい。
あの世界に浸ってしまった者として、物語後の彼女と不死の騎士“たち”に幸がある事を願わずにはいられないのだ。
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……え、ここまで読んだけど特に興味が沸かなかった?
……リリィが洒落にならんほど儚くて良い子でマジで可愛いから! ね!? (´・ω・`;)
この記事を書いた人
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