レビュー「アクトレイザー・ルネサンス」- 30年の時を経て復活を果たす古の遺産は懐古の情が湧き出るか
再生は基本的に破壊とセットだった思い出
ルネサンスっていうのは、フランス語で【再生】や【復活】を意味する言葉。
この言葉に初めて出会ったのは社会科の授業だけど、ゲーム的なモノで出会ったのは「ウルティマオンライン(以後UO)・ルネッサンス」だった。
あれは普通のプレイヤーとPKが共生する世界だったUOにPKがいない世界を作るという大型パッチだったんだけど、自分にとってはそれまでのUOが完膚なきまでに破壊されてしまった大型パッチだ。
【再生】とは、破壊とだいたいワンセットである事を学んだあの若かりし頃を今でもたまに思い出す。
あ、いつも通りネタバレ満載のレビューなのでご了承頂ければ幸い。
ストーリーは基本変化なしの追加有り
「アクトレイザー」の話をする前に、少しだけ会社の話をしよう。
「アクトレイザー」は、スーパーファミコン(以後、SFC)ゲーマーにとって往年の傑作に数えられる一つなんだけど、それを手がけた“クインテット”という開発会社は、その後「ソウルブレイダー」「ガイア幻想紀」「天地創造」という三部作を作り上げる事となる会社。今はもうないけど、その三部作を聞いた事がある人も多いのではなかろうか。
その布石になったSFC版「アクトレイザー」は、“結構難しかったけどすげぇ面白かった”と言うのが始めてクリアした時の感想である。
さて、こっからが本番。
ストーリーについてざっくり書くと、魔王サタンを神様たるプレイヤーが成敗する内容なんだけど、神様が力を取り戻すには人類の信仰心が低いから各地域を支配するサタンの眷属を倒しつつ地域毎に人間を誕生させ、神の奇跡を見せつけて信仰心植え付けるところから始めようぜ! みたいな話を重たくない程度にややシリアスへ寄せたモノである。
今作はそのSFC版ストーリーに追加要素があって、各地域に英雄キャラクターが導入されたのと、SFC版のエンディング後を追加したモノの2つ。
とはいえ、ストーリーの大筋はブレていない。
各地域でストーリーに英雄が絡んでくるけど、本当に上手く馴染むように絡ませていて違和感はないと言えるし、非常にしっくり来る内容に仕上げている。
それに、追加された7番目の地域“アルカレオネ”はそれまでやってきた事のオマケにして総決算的なステージになっているし、物語についてはまったく問題ないクオリティと言える。
では、30年の時を経て突如復活し突如発売された「アクトレイザー・ルネサンス」の物語以外がどんな復活を果たしたのか。
このゲームは横スクロールのアクションパートと街づくりをするシミュレーションパートに分かれるので、それぞれ見ていく。
無敵時間さんの多いアクションと攻めの姿勢な魔力結晶
アクション面で言うべきことは、挙動がそれなりに変化したという点。
攻撃が三連撃になったり、切り抜けしたり、上攻撃、下攻撃、バックステップ等々、結構多彩になった。
つまり攻撃モーションが単調ではなくなった、という事になるわけだが、それらのモーションはどれもクセがあると言って良い。
そのクセとは、バックステップとアクションの最後のモーションあたりに無敵時間さんが住んでおられる、という事だ。
プレイ中、「アレ? ダメージ受けたんじゃね?」と思いながらもなぜかダメージを受けていない、みたいなシチュエーションが多発する。
もちろん、これはちゃんと“無敵時間が発生するから”という説明がある。なので、“仕様”という事で実際は何ら問題はない。が、バックステップは結構壮大にすり抜けられる。
一方で新システムの魔力結晶は、雑魚からドロップする魔力結晶を一定値まで回収することで神様がステージ限定で強化される。最大強化は、攻撃力・魔法威力が100%UPし更に敗北直後一度だけその場で蘇るという特典付きだ。
攻略に役立つし、火力が上がり荒ぶる神様で敵を屠るのは非常に楽しい。それよりなにより、バックステップや無敵時間ですり抜けるだけだとボス戦で苦労すると言うのを暗に示唆したようで何よりなシステムである。
アクション面をまとめると、攻撃の無敵時間もバックステップも魔力結晶も全体的に大味ではあるけど良好、といった感じだった。
クセは強いが慣れれば使いこなせるシステムだし、不快には思わないというパターンだ。いやほんと、クセは強いけど。オリジナルからみれば結構な変化だが、今の時代に合わせたと言われれば納得できる。
なお、難易度については、アクション慣れしていればノーマルはかなり緩く感じるだろう。大体は前述の無敵時間と魔力結晶を併せればだいたいゴリ押せる。魔法の発動中が無敵なのは変わらないし。
しかして、ノーマルとハードの間に別の難易度くれ、と思えるくらいには難しく感じた。特に魔法がなく、レベル1のままで、結晶石も解禁されていない最序盤のハードは慣れるまで結構辛い。
それこそ無敵時間と魔物の動き、場所等々を熟知した上での攻略が求められる。
シミュレーションパートのタワーディフェンス的な要素に見たストレス
シミュレーションパートはストーリーを進めながら適当な指示を出せば人間が勝手に街を作っていってくれるので、その間天使として魔物の攻撃を防ぐというパートになる。
それ自体はとても簡単であれど、新要素として追加された“魔物の襲撃”、いわゆるタワーディフェンス的要素については“面白いように見せかけて辛いモノになっている”という感想を抱かざるを得なかった。
この襲撃要素、ストーリー上のイベントとして発生した際は任意のタイミングで開始できる(全ての魔物の巣を封印したらランダムで発生する様になり、それは任意に開始できないが致命的な事にもならない)のだが、ストーリーを進める場合は必須条件なので避けて通る事はできない。
問題点を簡単にまとめよう。
- 魔物の出現ポイントと進軍ルートを教えろ
- 門砦の位置をもう少し柔軟にしてくれ
- 魔物の種類が分かりづらい(畑や工場狙いのヤツや、砦狙いのヤツなど)
概ねこの三点に絞られる。
1については、もうそのままだ。
基本的なタワーディフェンスのゲームは、リアルタイムで本拠地に迫り来る敵に対しどこで防衛すべきか想定しながら各施設を設置する事で進軍を阻む内容だが、このゲームの場合イベント開始以降は終了するか敗北するまで防衛施設である砦の増設や砦位置の変更はできない。
つまり、設置した砦が魔物の出現位置や進軍ルートとは何ら関係ない位置取りをしていたらまったくの役立たずで終わるという、イベント開始前の配置こそモノを言う設計なのだ。
唯一移動できる強力なユニットとして「英雄」が用意されているが、英雄だけで戦況を覆せるほどどうにかできるかと言われると、後半はどうにもできないケースが多い。
結局、魔物がどういう進軍ルートを通るのか把握するために、一度敗北前提でイベント進行する必要が出てくる。
その上で2についてだけど、砦は通路を塞ぐ門砦と、攻撃の弓砦(いわゆる物理属性攻撃)・魔法砦(いわゆる物理属性攻撃)の三種類ある。弓砦と魔法砦は概ね住居等々をぶっ壊せば大体の場所に置けるけど、門砦の場合は何故か置けない場所がいくつかある。
もちろん、特定位置にしか防衛施設を置けないタワーディフェンスのゲームもあるが、本作の場合は「魔物の進軍ルートがわからないのでとりあえず本拠地への通路を塞いでおく事さえ許されない」という理不尽を味わえる。
魔物が攻めてくるかもしれないという環境下で生きているのに、本拠地の周囲の守りを固められないほど人類は愚かなのか? と素で思った。
結局最適解は、魔物の出現ポイントと進軍ルート確認のため一度敗北前提でやれ、に行き着いてしまう。
また3については、一部の魔物は特定の砦や建築物があったらそれを率先して破壊しに行く、という特徴を持つ。その種類が非常に分かりづらい。
何故ソレを把握する必要があるかと言えば、敗北条件がイベントの都度変わるので、気づいたら畑を破壊されて敗北してた、なんて事があるからだ。ほんと、アレは辛い。
つまり最適解は、魔物の種類を確認するため一度敗北前提で(ry
そんなわけで、“砦の事前準備が8割・英雄の立ち回り2割”くらいの分量が魔物の襲撃に対する印象だった。
事前準備が大切なのに、イベント中には砦を建設できないので一度敗北前提でプレイし、魔物の出現位置や種類、機能しなかった砦などを確認しないといけないのだ。
それに引き換え、移動ユニットの英雄要素は良かったし、違う地域の英雄を呼べるのも凄く良かった。各英雄も個性があったし、どの英雄で対処するか考えるのは結構楽しかった。
もしかしたら、英雄を育てまくれば砦の配置をさほど気にしなくてもどうにかなったかもしれない。普通にプレイしていたら、そこまでレベルが上がる前にクリアしてしまうわけだが……。
そんな英雄要素は楽しめたからこそ、勿体ないと言わざるを得ない。
リメイクでアクションパートは難易度設定を間違えなければゲームオーバーはほぼなくなっただろうに、何故追加されたシミュレーションパートでゲームオーバーを何度も見なければいけないのか。
ゲームオーバーなんて文字が表示されるだけで実際はロードすらなくイベント前の状態からゲームは続くけど、何度も配置をやり直す羽目になるのは地味なストレスにしかならない。
画質はアレだけどサウンドは最高だった
他の要素についてだが、グラフィックは決して良いモノじゃない。
これはSteam版を遊んだからかもしれないが、解像度を上げるとそれなりに荒く見えるし「ジャギー、程よく分かるなー」くらいには見える。
特に、神様の降臨時とボス出現時、ステージクリア時あたりは背景的な都合もあってよく分かってしまう。
かといって、コレが致命的になるかと言われるとそれはあまりない。元よりSFCからのリマスターなんだし、この程度はご愛敬で済ませて良いレベル(何ならスマホ向けにも出てるんだし)に感じた。
あとついでだが、Steam版はフレームレートを最大で無制限にできる。
他プラットフォームの事は分からないが、Steam版ならフレームレートに困らないという事だけはお伝えしておく。
また、古代祐三さんのサウンドは今回しっかりリメイクされており、オリジナル版でもリメイク版でもプレイ可能となっている。大変豪華で素晴らしい。特に最初のステージであるフィルモアや追加ステージのアルカレオネには心震えずにはいられなかった。鳥肌モノである。
とりあえず買ったみんなは、どうにか解放条件をクリアしてアルカレオネの音楽を聴いてくれ。なんなら、早期購入特典のサントラ五曲中の一曲がアルカレオネだ。思う存分聴いてくれ。
つまり、まとめると?
このゲームの感想を端的に言えば、「懐古の情は湧き出た」の一言に尽きる。
SFC当時に初めてフィルモアに降臨した何十年前。
あの時を彷彿とさせる古代祐三さんのリメイクされたサウンド。
昔はどことなく某人形っぽい感じだった天使が大幅リニューアルしての再会。
色んな神話が混じってそうなサタンの眷属。
人類に自身への信仰心を育てさせた各地域でのイベント。
どれを取っても懐かしい。
特にアクション面での難易度は、設定さえ間違えなければSFC版よりかなり低いとみて良いだろう。概ね何かを破壊することなく【再生】できた印象だ。
ただし、やはりシミュレーションパートで発生する魔物の襲撃イベントと言う名のタワーディフェンス要素だけは別である。
あれはもう、調理法を間違えたとしか言いようがない。
どこから魔物がくるかもわからないし、敗北条件が都度変わるので気づいたら負けたなんて事は多々ある。中盤以降、「少しでいいから事前情報をくれ、頼むから」と叫びたくなるレベルで辛い。
なぜあの要素だけ急に「死して学べ」という力強すぎる教えになったのか、正直よく分からない。
しかして、「懐古できるか否か」という部分に焦点を当てれば、十分できるラインだった。
思いのほかちゃんと懐かしめたし、難易度ノーマルで遊んだ結果としてSFC時代を彷彿させるような悪戦苦闘はなく、むしろ魔力結晶のお陰で荒ぶる神様になれた。シミュレーションパートのタワーディフェンス要素という一部を除けば、今の時代に合わせて快適に遊べるようになったのは【復活】が一定の成功を収めたと言っても良いのだろう。
とどのつまり、「懐古できるしそれなりに遊べるのだから及第点」という評価に落ち着く。それが、30年ぶりに【復活】を果たしたアクトレイザーへの評価である。
なので、「ソウルブレイダー」「ガイア幻想紀」「天地創造」といったクインテット三部作も無理のない【復活】を目指して欲しい、とあの頃を懐古しながらこっそりと願うのだ。
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