レビュー「大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-」:スケールの大きな物語の“序章”となる冒険譚
続編ありきをどう評するか
前置き
基本的に、ゲームというのはゲームの目的に沿ってプレイヤーが勝つためにプレイをします。RPGはそのためにモンスターを倒しますし、シミュレーションはそのために試行錯誤しますし、アクションでより上手く動こうと努力するのも、アドベンチャーで選択をするのも、目的を達成したあとの勝利が欲しいからです。
その一方で、強制的に負けるしかないイベント、いわゆる“負けイベント”なるモノが存在します。ドラクエ4の4章キングレオ戦や、ドラクエ5の幼年期のゲマ戦はそれですし、スターオーシャン2やら何やらその他諸々。勝ちたいがためにプレイしているはずなのに、システム側から強制的に負けの烙印を下される。これほど悔しい思いをするのはそうもありません。ある意味、大変ストレスが溜まるイベントとも言えます。まぁ、だからこそ感情移入できるとか色々な作用があるわけですが……。
で、世の中にはそういった「強制された負けイベント」をどうやって攻略してやろうかと思う人達がいます。だって、悔しいじゃないですか。負けっ放しなんて。だからこそ、無謀と知りつつも、負けると分かっていながらも、その絶望的な状況をどうにかするために、「自分の中での勝利条件」を満たすような逆転劇を、模索するのです。……まぁ、私の場合、システムの言うがママに負けるというのが嫌だというだけの、単なる天の邪鬼だったわけですが。
あ、ここまでが前置きです。
新シリーズの幕開けを喜ぼう?
さて、奇妙奇天烈ながらも強烈なキャラクターの個性と半ば強引なストーリーで“裁判”を舞台にするという新しいアドベンチャーの可能性を見せつけた逆転裁判シリーズですが、本日のレビューはその色んな意味で仕切り直し的な空気も漂う「大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-」となります。逆転裁判シリーズも、ナンバリングで言えば5で煮詰まった感は満載ですし、色んな意味で仕切り直したいという思いがあった……ような気がしないこともありません。あ、一応アドベンチャーなのでネタバレに注意して下さい。
で、この作品のやっかいなところは、「いち作品と見る」か、それとも「今後続いていくシリーズの序章に過ぎないと見る」かで大きく評価がわかれます。ぶっちゃけ、雲泥と言っても良いでしょう。
ですので、まずはそこから見ていきましょう。
新シリーズの幕開けとみるか、“いち作品”としてみるか
結論から言ってしまうと、このゲームは「大逆転裁判」という凄くスケールが大きい物語の中の、「序章に位置づけられる物語」になっています。ゲーム内において、いくつもの事件を解決することになりますが、スケールの大きい物語の伏線はほぼ回収されません。そこに対する評価が、本作の評判を下げるモノになっています。ああ、勘違いしないで欲しいのは、「伏線を回収していない」だけであり、「-成歩堂龍ノ介の最初の冒險-」という物語は「一応完結」しています。
恐らくこれは、例えば某スターウォーズ的にエピソード1としても良かったかもしれませんし、3部作なり何なり続編がある事を臭わせておけば良かったわけですが、まぁそこは色んな事情があったのでしょう。ともあれ、流石にこれで「続編作っていません」などと言おうモノなら、烈火の如く焼け野原ができあがりそうな雰囲気さえあるのは、わからんでもありません。
では、その中身はツマラナイのか? と言われたら、決してそんなことはない。それこそが、このゲームに対して「何を評価したか」で大きく変わるわけです。
かつての逆転裁判らしさは感じられた
物語は全5話で、シリーズとしてもかなりボリュームが多い方であるのは間違いないでしょう。キャラクターも台詞が棒読みじゃないし、アドベンチャーにしては結構動きがあります。そういった部分は、実に逆転裁判らしい。
また、新システムといえば、ホームズとの共同推理が該当します。共同推理は、名探偵ホームズのズレた内容なのに答えはあっている迷推理を修正していくというシステムですが、結構ノリが良い物になっており、上手く「見て考察する事を誘導する」ようなシステムでした。
他には、裁判についても複数の証人がいるシステムを採用していますが、こちらもかなり「答えを誘導している」様な印象を受けます。そういったところもあり、過去作に比べると難易度はそんなに高くも感じられませんでした。体感的なものなので他の人は違うかもしれませんが、基本は丁寧かつ答えが何となくわかるように、突拍子もないトリックが出てこないような雰囲気を醸し出している印象です。
なお、一番楽しかったのは4話の漱石さんでした。あれはもう、非常に良いインパクトのあるキャラでしたし、続編での再登板も是非に期待したいモノがあります。あのキャラクターが続編も出ると明言があれば、何も言わずお財布のひもを緩める所存です。
その一方、不満もないわけではない
ふと気づいたのは、新システムの共同推理について。非常にノリの良いシステムですし良い感じに仕上がってはいるのですが、従来のシリーズに照らし合わせると、自身で証拠を集めながら推理するところをホームズというキャラクターが色々とハチャメチャに推理して答えを導き出してくれるというお手軽システムにも見てとれます。決して、ホームズとの掛け合いがツマラナイとかそういったモノではありませんが、ホームズがかなり「楽をさせてくれる」という印象でした。ホームズというキャラクターのインパクトはありますけど。
あとは、物語が複雑に入り組んでいるせいか、無罪を勝ち取ってもスッキリしないケースがあります。物語の都合上仕方がないのですが、最終話でもそんな感じがするので、やはり一番は比較的スッキリ解決する4話の漱石さんの話だと思い知らされた印象は拭えません。漱石さん、本当に存在が良い。
総評:「大きな物語の結末を先送りされた」事に対してどう思うか次第
私としては、「続編に期待を寄せるくらいには楽しめた」というのが個人的な評価です。当然ながら、「伏線」についての物言いがある事や、そもそも最初から「続編がある事を明示しとけ」論が出るのも理解できますし、それらについては素直にそう思います。かといって、作品そのものがツマラナイかと言われたらそんなことはなかった。……漱石さんのお陰が六割くらいありますけど。
開発側はありとあらゆる伏線の未回収を理解しているでしょうし、そこをどうするのかに焦点があたります。現時点で、メインストーリーのDLCな話は出てきていませんし、そもそもストーリーの規模を察するにDLC程度で話が終わるとは思いがたい。続編で完結させる方向のような気はします。続編といっても、次回作でしっかりと締めくくるか、さらに続くのかはわかりませんが。
私の感想ではありますが、ナンバリングの4や5よりは旧来の逆転裁判らしさがあったように思えましたし、ストーリーの伏線については「しっかりと続編が出て完結してくれるならそれでよし」と思えるくらいには楽しめたのも間違いありません。これで“続編はなし”と来たら流石に“異議あり”を叩きつけますが、そんなことはなかろうとも思いたいモノはあります。本シリーズをどう締めくくろうというのか、楽しみに続編を待ちたいモノですね。
この記事を書いた人
:「大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-」のレビューでございます。
:ふむ。まるで完結してなかったか。
:終わってなかったね。というか、最終話の終盤は慌ただしかった感があるかな。最後まで、しっかりと謎を残してたし。でも、続編が期待できそうな内容だったとも言えるし、楽しみにしたいですよ。……ほんと、漱石さんが出てくるだけでいいんだけどなぁ……。
:……貴様が好感視するキャラクターというだけで、色んな意味で不安が過ぎるな……。